自分だからこそできることを。研究の扉を開く6週間

はじめに

医師というと、多くの方は、臨床現場で患者さんと向き合う臨床医を思い浮かべられるのではないでしょうか。しかし、「研究者志望」という医学生や「研究者」とよばれる医師のみが、研究の世界に身を置くわけではありません。医師としての働き方の主軸は臨床医だとしても、公衆衛生医師だとしても、研究者としての側面が必要です。良き臨床医、良き公衆衛生医師になるには、良き研究者であることが不可欠なのです。本記事では、本学医学科3年次の学生全員が履修するユニット「研究室配属」について、お伝えいたします。かく言う私も、臨床医志望でありながら研究を学んでおりますので、本記事を、受験生や保護者の皆さまに広くお読みいただけましたら幸いです。

なお、学生(学部生)の立場で行う研究活動については、有志の学生が選択するユニット「医学研究」に関する記事やその他関連記事にて、学生の実例を含め、より詳しくお伝えしております。

研究室配属とは

研究室配属では、学生が各講座(研究室)に配属され、指導教員のもとで6週間研究を行います。学生は、自ら実験を計画し、手を動かして研究を行い、その成果を発表することで、研究の世界への第一歩を踏み出すことができます。研究室配属とその前後の流れについて、順を追ってご説明します。

Early Research Exposure(ERE)

研究室配属に先立ち、Early Research Exposureという演習が行われます。6回の演習を通して、計30名程度の先生方に研究を紹介していただき、各研究紹介後には質疑応答を行います。

紹介される研究は、人体や生物の構造・機能に関する基礎研究、病気の予防・診断・治療に関する臨床研究、公衆衛生に関する社会医学研究と、多岐にわたります。研究内容そのもののみならず、研究の世界に惹かれたきっかけ、現在の研究に至るまでの過程もお話しくださるため、学生は各々の将来に重ね合わせて自分なりの研究の道を模索するヒントを得られます。質疑応答では、学生からたくさんの質問が出ますが、こちらも、研究者としての在り方に関するものから研究内容そのものに関する学術的なものまで、様々です。先生方は、その場で要点を抽出して、しかし丁寧にご回答くださいますが、後からメールで、データ等を示しながらさらに詳しく教えてくださることもあります。このように、学生はEREを通して、多様で豊富な研究内容、研究者像に触れます。演習名の中のExposure(触れる・さらされる)という言葉が実感できる内容です。

研究室配属 〜研究活動〜

研究室配属で学生が配属されることのできる研究室も、基礎系、臨床系、社会医学系と様々です。EREを終えると、学生はそれぞれ必要に応じて興味のある研究室を見学したうえで、配属先の希望を提出し、希望調査に応じて配属先が決定されます。なお、ユニット「医学研究」を履修している学生は、既に通っている研究室に優先的に配属されます。指導教員と学生は1対1のこともあれば、一方あるいは両方が複数名のこともありますが、1名の指導教員におよそ1-3名の学生がつく計算になり、少人数制の教育となっています。学生は、既にその指導教員が進めているプロジェクトのうちの一部を担うことも、自ら研究テーマを立案することもあります。

学生の研究テーマの実例をお示しします。幅広い分野の研究が選択肢になります。

  • 中耳真珠腫発症機序解明
  • 臨床病期ⅠA1 非小細胞肺癌における術後予後および予後予測因子に関する解析
  • ヒトの大腸癌手術検体の病理組織学的検討
  • 骨格筋リアノジン受容体の Ca2+誘発性 Ca2+放出機構が筋ジストロフィー病態に及ぼす影響
  • CO2、匂い、熱の刺激が誘発するヒトスジシマカの探索行動の持続性
  • 大腸菌の必須タンパク質の機能を解き明かすAPLICoT法の開発
  • 抗腫瘍効果増強を目指した新規遺伝子改変腫瘍溶解性ウイルスの開発
  • 副甲状腺細胞の増殖と転写因子Gcm2との関連についての解析
  • 魚の母指運動に関与する靭帯の発見について

テーマが決まれば、リサーチ・クエスチョン(研究によって答えを明らかにしたい問い)から計画を考案し、実施し、結果を考察します。この考察をもとに、その後の計画を軌道修正したり、全く新たな方向に転換したりします。この流れを通して、実験手技のみならず、計画を立てたり結果を考察したりするための論理的な思考回路も向上させられます。

毎日研究室に通うなかで予想外の結果が出ることもありますが、それが示唆することに思考を巡らせ、試行錯誤を重ねる過程こそが、研究の面白さが感じられるところです。

20260629.jpg帰宅時、研究室のある階のエレベーターホールから見える景色。今日もいろいろ学べて良かったなあと思われます。

研究室配属 〜研究発表〜

研究室配属期間の最終日には、研究成果の発表会が行われます。学会さながら、教員が座長(司会進行)を務め、発表者はスクリーンにスライド資料を投影しながら口頭発表を行います。発表後は、質疑応答の時間が設けられます。学生同士は、普段は医学の中でも同じ分野を同じペースで学び、時に教え合う関係性ですが、この発表会の日には、異なる分野の立場から意見を交わします。

発表会の質疑応答の場面。活発な議論が展開されます。

また、研究発表の抄録(研究発表の要点をまとめた文章)や、発表スライドに音声を付けた動画も作成します。これらは学年全体に公開され、発表会の際に会場に居合わせることができず見逃した発表も見ることができます。これらの一連の研究発表は、研究活動そのものに劣らず、学生にとって大きな成長の機会となります。研究活動では、手技や思考回路といった、主に自分の内部が研鑽されますが、研究発表では、研究成果を自分の外側、研究室の外側に発信する力を向上させることができます。発表内容を組み立てる際には、聴講者の知識や関心を想定しながら、限られた発表時間内で話の構成のバランスを取る必要があります。口頭発表では、漢字表記が思い浮かびにくい音読みの言葉を避け、訓読みの言葉に言い換えるなど、発表の形式によって言葉遣いを変える工夫も必要です。発表スライドについても、1枚あたりの情報量、デザインの見やすさ、表やグラフの読み取りやすさ等に配慮し、試行錯誤します。さらに、話し方においても、声の大きさ・高さ、話す速さ、間の置き方を模索します。以上のように、多くのことに注意を払って発表をデザインし、披露することを経験します。

また、発表会においては発表者としてのみならず、聴講者としても成長できると感じます。馴染みのない分野の研究発表を理解し、質問ができるようになるのは難しいことですが、聴講を重ねるうちに、発表内容の中で各事項の重要性の大小を自分なりに判断し、要点を逃さないまま聴き通せることが増えます。

発表会では、教員が審査員を務め、優秀であった発表には優秀発表賞が授与されます。研究室配属は、この表彰式で締めくくられます。

表彰式の集合写真。立派な賞状とホルダーを授与されました。

ユニット「医学研究」

研究室配属期間終了後も、選択ユニット「医学研究」を履修し、研究を継続することができます。こちらのユニットの履修者の中には1,2年生の頃から履修を始めた学生もいますが、多くの履修者は研究室配属をきっかけに研究を始め、継続しています。ユニット「医学研究」については、こちらの記事でご紹介しておりますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

おわりに

研究室配属は、普段から研究を行う学生にとっても、本ユニット単独で履修する学生にとっても、実りのある期間となります。医師は、生涯を通して学び続ける職業と言われますが、自ら研究に携わることによって、世界ですでに知られている知を学ぶことにとどまらず、未知の領域を明らかにし、新たな知を作り出すことができます。臨床においても、自分で問いを立て、その答えや解決法を探す力は、きっと大きな糧となるでしょう。慈恵で皆さまとお会いし、ともに医学の未来を担う日を、心より楽しみにしております。