社会から健康リスクを取り除くことを目指す"社会医学"の魅力

(写真:私が医学科4年時に出版した論文)

初めまして! 今回は、課外活動として行っている私の研究についてご紹介させていただきます。「研究」と聞くと、皆さんなんとなく研究室で試験管を振ったりシャーレで細胞を培養したりする姿を想像するのではないでしょうか? 実は私が携わっている研究は試験管やシャーレを使うようないわゆる「基礎医学」という分野ではなく、主にパソコンの統計ソフトを使ってデータの分析を行う「社会医学」という分野になります。

図1 - Mayu.png

(写真:実際に使用していた統計ソフトSPSSの画面)

社会医学とは「社会全体から病気のリスクを減らすためにはどうしたらよいのか?」ということを考える分野です。 例えば、あるグループは別のグループと比べて糖尿病を患っている人の割合が高かったとします。よくよく2つのグループを比べてみると、糖尿病の割合が高いグループの人はそうでないグループの人と比べてデスクワークが多く、間食の頻度も高いことがわかりました。この場合、糖尿病のリスクは運動不足や頻回な間食なのではないか?ということが見えてくる、といった具合です。 つまり、患者さんの病気そのものやその治療方法に着目する臨床医学や、病気の原因やメカニズムをミクロなレベルで解き明かす基礎医学とは異なり、社会医学では患者さんの置かれている社会的背景を読み解き、社会全体から健康リスク取り除くことを目指すという特徴があります。

私は元々病気の予防に着目する社会医学に興味があって医学部を目指しました。(正確に言うと、医学部を目指した頃は「社会医学」という言葉は知りませんでしたが、大学入学後に自分の興味関心分野が社会医学という分野にあたるということを後々知りました) それもあって、2年生の頃から社会医学を扱う環境保健医学講座に出入りするようになり、4年生では先生方のサポートを頂きながら筆頭の原著論文を出版することができました。

この研究では、「コロナ禍の単身フルタイム労働者」という集団に着目して、その中でもどのような特徴の人が精神的健康度(Mental Wellbeing)が悪化しやすいか?ということを約8000人のデータを元に分析しました。その結果、単身フルタイム労働者の中でも特に「①時間外労働時間が増加」し、かつ「②他者との交流が減少」した人は有意に精神的健康度が悪化することが明らかとなりました。 最終的に論文という形にすることができとても達成感があったものの、そこまで辿り着くまでに幾度となく困難に直面しました。特に、最初の段階の「どういう特徴の人が精神的健康度が悪化しやすいのか?」という特徴を見つけ出すのがとても大変で、当初は心が折れそうになりながらパソコンに向かう日々でした。しかし、その時に指導教官の先生方に「社会医学は、無数のデータの中から"この集団のリスクが高い"という特徴を見つけ出す宝探しみたいな分野だよ」「それを探し出すことによって、現在知らず知らずのうちにリスクの高い環境に身を置いてしまっている人に手を差し伸べることができるんだよ」という言葉がとても心に刺さったのが印象に残っています。

ぜひ、みなさんにもこの社会医学の面白さを味わっていただければと思います!

(医学科5年 伴野未沙)※2023年1月