とある臨床研修医の1日
医師国家試験に合格して医学部を卒業すると、臨床研修医(いわば見習い)として、2年間いろいろな科で働く必要がある。慈恵医大病院で働いている、とある臨床研修医の1日を見てみよう。
8:30 病棟
「おはようございます!」
僕の名前は慈恵太郎。この春に慈恵医大を卒業して、4月から慈恵医大病院で働いている臨床研修医だ。臨床研修というのは僕たち新人医師に2年間いろいろな科で働いてもらって、様々な経験を積ませることが目的だ。僕も将来は外科医になりたいけれども、今は内科で働いている。科によっては7時くらいに仕事が始まるところもあるけれども、今は8時30分くらいに病棟に来て仕事を始めている。今日の天気は快晴、雲一つない青空だ。いい一日になりますように!
まずは昨晩の患者の様子と今朝の血液検査の結果を、カルテを見て確認。9時くらいからは上司の先生もやってきて、今日の回診の打ち合わせだ。
9:30 回診
上司の先生と一緒に患者さんの回診。カルテを見て気になったところを尋ねたり診察していく。「お身体の具合はどうですか?」「ちょっとお腹を触りますね」。大切なのはこちらが知りたいことだけを尋ねるのではなく、患者さんの声に耳を傾けること。診療の中心はあくまで患者さん、「病気を診ずして病人を診よ」だ。
11:00 カンファレンス
回診が終わったら、患者さんから聞いたことや診察の結果を元に、みんなで話し合って治療方針を決めていく。基本的に発表するのは研修医である僕。それに上司の先生や看護師さんたちが付け加えていく形で、治療方針が決められていく。「太郎先生、この患者さんはどう治療する?」「こういう症状があるので、●●の検査をして、××の薬を投与します。」「検査はそれでいいね。薬は××より△△の方が良いと思うよ。」
そういえば4月に働き始めたころは、何もわからなくて落ち込んでいたなあ...。そうしたら上司の先生からこんなことを言われたっけ。
「太郎君、新人の君が何もしらない、何もわからないのは当たり前だ。だからこそ君のわかる範囲で全力で仕事をしてみなさい。下手くそでもいいから自分の頭で考えて、わからないことを1つ1つ勉強していく、これが名医になる唯一の道だよ。僕たちがサポートしてあげるから、伸び伸びと思い切りやりなさい。」
あれから必死に仕事をしてわかることも増えてきたけど、まだまだ知らないことばかり、頑張らないと。おっといけない、発表に集中集中。
13:30 研修医室
お昼ご飯を食べてからちょっと休憩。慈恵が位置する西新橋はおいしいお店がたくさんあるから外に食べに行く人も多いけど、今日のお昼は高木会館のお蕎麦屋さんだった。「地下蕎麦」の愛称で親しまれているお蕎麦屋さん"松寿庵"はお医者さんだけでなく、患者さんや学生にも大人気。僕も学生のころからよく通ったなあ。少し時間ができたから、カンファレンスでわからなかったことを勉強しようかな。
おや、看護師さんから電話だ...。「太郎先生、○号室の患者さんが胸をすごく痛がっています!」むむ、これは大変。色々な考えが一瞬で頭に浮かぶ。悪いのは心臓かな?肺かな?胃腸かな?急に痛くなったのかな?聴診器で胸の音を聞かないと。心電図は検査する必要があるな。血液検査も必要だろうか?
とにかく急ごう!「すぐに行きます!」
16:00 病棟
○号室の患者さんは心筋梗塞だった。あの後急いで診察をして心電図を取ったら、心筋梗塞が強く疑われる結果に。上司の先生と循環器内科の先生も駆けつけて、緊急治療が行われることになった。僕もお手伝いして先ほど終了。疲れたけれど、最悪の事態にならなくてよかった。
「太郎先生お疲れ様!4月に比べて腕を上げたね。」ありがとうございます!
「でも、☆☆の検査もしておくとよかったね。」うぐっ。精進します...。
あとは夕方の回診をして終了。帰れるのは17時30分くらいだろうか。カンファレンスでわからなかったところは、明日までに調べておこう。今日も1日お疲れ様!
終わりに
- 臨床研修医の1日、いかがでしたでしょうか。実際は科によって、日によって、1日の過ごし方は異なります。朝から晩まで忙しい日もあれば、1日平和な日もあります。手術のお手伝いや麻酔管理をすることもありますし、救急外来でケガの手当てをすることもあります。
- しかしどのような仕事であれ、臨床研修で大切なのは「自分の頭で考えること」です。今は膨大な数の教科書が世に出ていますし、スマホで調べれば大概の情報は検索できます。けれども、それらの知識を単に覚えただけでは良い医者にはなれません。
- 「なぜこの検査をするのか?」「本当にこの治療で良いのか?」
- 常に疑問を持ち、わからないことを調べ、日々の診療に応用していく。そうして自分の頭で考えていく中で得られた知識や技術は血肉となり、たとえ数十年たっても忘れることはありません。
- 慈恵医大は「病気を診ずして病人を診よ」の精神のもと、患者さんのことを第一に考え、自分の頭で考える医師を養成する教育を提供します。あなたも慈恵医大で理想の医師を目指してみませんか?
※文中に出てくる患者さんの情報は全て架空のものです。
(附属病院の名もなき研修医(令和2年卒))