明治14年に始まる人道主義・博愛主義の道:慈恵140年の医療・研究・教育
患者さん本位の医療の実践は今日の医療の世界では当り前になっていて、病院や大学などの医療関係機関のホームページには、医療スタッフが患者さんににこやかに接するシーンがイメージ画像として多く使われています。しかし私がこの大学に入学した今から40年以上前、医療をめぐるこのような雰囲気は世間にまだほとんどないものでした。そのような中で、当時の本学附属病院をはじめとする関係医療機関には、職種を問わず患者さん思いで丁寧なスタッフが揃っているという定評がありました。入学前に他院での入院経験を持っていた私の眼にも、患者さん本位の姿勢が本学の突出した特徴として映りました。この姿勢は学祖が人道主義、博愛主義に基づく理念を持って本学を開学して以来、「病気を診ずして病人を診よ」を合言葉に附属病院、大学、看護専門学校等の関係機関が一体となって引き継いできた姿勢であることが、本学入学後の私にすぐにわかりました。(写真は学祖高木兼寛・大正6年頃)
学祖の時代にあってはまだ疫学という医学の研究手法はとても新しいものでした。学祖はこの疫学の手法を使って、わが国に深刻だった脚気という病気の対策に取り組みました。そして脚気が栄養の欠陥によるものとの考えから食事の改善に工夫を凝らし、多くの人々を脚気から救うことに成功しました。時代の最先端で医療に直結する学祖の偉業であり、人道主義、博愛主義に動機づけられた学祖のこの研究姿勢を本学は永く模範として大切にしています。(トップの写真は高木の改善食案と手計算)
大学とその附属病院の日々の活動は、幅広い年代層のさまざまな職種のメンバーが支えて引き継いで行きます。医療にも研究にも貫かれる患者本位の姿勢は、私立の単科医科大学ならではの一体感を活かして本学の歴史の中に鍛えられ、骨の太いものになっています。そしてその姿勢を次世代に確実に引き継ぐ教育についても、本学は開学以来の学祖の想いとして力を入れて引き継いでいます。
本学を特徴づけていた患者さん本位の医療・研究・教育姿勢は、今日では国際的な標準として珍しいものではなくなりました。このことを本学は誇りにしながら、その骨太の伝統に裏打ちされた信念に自信をもって明日に向けた歩みを続けています。
都心にある西新橋キャンパスでは、新しい時代の医療に向けて附属病院本院の外来棟をリニューアルしたところです。この外来棟の設計と運用計画には、附属病院を構成する各部門の経験と将来への想いとが、本学の歴史と伝統の具現として注ぎ込まれています。(写真は新外来棟内部)
(医学科長 教学委員長 教授 竹森重)