《横尾隆教授》二兎を追うものは三兎を得る?
元々欲張りで目立ちたがり屋でした。学生時代も学業、部活、(遊び)のいずれでも目立ちたく、そのための努力は惜しまなかったと思います。ヨット部主将としてクラブを牽引する一方、勉学も力を抜かず卒業時は学年を代表し答辞を述べる機会も与えられました。医師になってからもその欲張りな性格は治りません。医師には診療を通して目の前の患者さんを救う"臨床"と、同じ病で苦しむ世界中の患者さんのために"研究"を通して貢献する2通りの生き方があります。私はそのどちらも諦められず両方に従事してきました。それは苦労が2倍になるように思われがちですが全くそのようななことではなく、逆に相乗効果があるため効率よく仕事を進められると考えています。つまり直接患者さんの診療をすることにより、現在の医療の限界や問題点がよくわかり研究での課題が明らかになります。また患者さんから期待や励ましをいただくことで研究に対する強いモチベーションが得られます。一方、研究を進めていると科学的興味に誘われて臨床からどんどん離れていってしまい医師ではなく科学者になってしまう人が多い中で、臨床に携わることにより"患者さんを助けるため"という方向性を見失わずにすみます。
私は腎臓病専門医として、日々腎臓病患者を診療しながら腎不全を患うことの苦労を目の当たりにしてきました。そしていつか腎不全のない体を再現させてあげたいという強い信念のもと腎臓再生研究を進めてきました。当初腎臓は非常に複雑な臓器のため再生させることは不可能と言われていましたが、20年以上の努力を積み重ねることにより現在では前臨床試験の段階まで進むことができています。今思うと臨床か研究のどちらかを早い時期で選んでいたらここまで来られなかったと思いますし、これからも欲張り続けてなんとか目の前の患者さんに早く届けたいと努力を続けております。本学を志す諸君にも是非臨床と研究を両立させることができることを知ってもらいたいです。
さらに年齢を重ねると、後輩を教育するという機会にも恵まれるようになります。優秀な後輩を排出することは本学だけでなく医学全体の発展につながりますし、教育を通して自分を磨くことができると考えます。二兎を追っているうちに三兎目が現れたという感じです。私はこのまま三兎を追い続けようと思っています。是非あとに続く欲張り屋さんが本学に来てくれることを願っています。
(内科学講座(腎臓・高血圧内科)主任教授 横尾隆)