宇宙に行ってみませんか? 〜宇宙航空医学研究室〜

(写真:Graviteに培養細胞をセットし、模擬微小重力を暴露している様子 )

私は細胞生理学講座宇宙航空医学研究室で医学研究を履修しています。研究室では宇宙医学(Space medicine)に関する研究をさせていただいています。この文章を読んで宇宙医学に少しでも興味を持っていただけたら嬉しいです!

宇宙医学とはなんでしょうか。宇宙医学とは簡単に言えば、宇宙に行ったときに体にどんな変化が起きるかを考える学問です。宇宙に行くと生物は主に3つの影響を受けることが知られています。1つ目は微小重力の影響です。地上では私たちは1gの重力を常に受容して生活していますが、宇宙に行くと重力はほぼ無くなり、ふわふわと空間に浮かぶことができます。2つ目は宇宙放射線の影響です。宇宙空間では高いエネルギーを持つ放射線が大量に飛び交っていることが知られています。国際宇宙ステーションの壁だけではその宇宙線を完全に遮蔽することが難しく、生物は宇宙放射線に暴露されることになります。3つ目は閉鎖環境の影響です。宇宙空間で人が長期滞在する国際宇宙ステーション(ISS)は地球とは隔絶された閉鎖環境です。何かが起こってもすぐに地球に帰ることはできません。宇宙滞在は精神的にも人に大きな影響を与えます。これらの環境変化によって、人の体には様々な変化が生じることが知られています。例えば、宇宙に行って比較的早く生じる変化として、平衡感覚を司る前庭系に影響が生じ、めまいに似た症状を及ぼす「宇宙酔い」という現象が知られています。そのような変化がどうして起こるのか、どのように治療するか、どのように防ぐことができるのか、他にはどんなことが起こり得るのかを考えるのが宇宙医学です。慈恵医大の宇宙航空医学研究室は1966年から続く歴史のある研究室で、日本宇宙航空環境医学会の事務局も設置されています。研究室には、重力制御装置「Gravite」が設置されていて、細胞レベルで心血管系や骨格筋系などに由来する細胞への重力変化の影響を解明する研究が実施されています。また、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同研究契約を締結し、国際宇宙ステーションに滞在したマウスに関する研究も行われています。

最後に私の研究内容について少しお話しさせていただきます。私はHUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)という血管の内皮細胞を培養し、重力に対する反応性を検討する研究を行っています。具体的には、培養したHUVECをGraviteにセットして模擬の微小重力に一定期間暴露させ、それと地上に整地しておいたコントロール群(地上検討群)とを比較します。その方法は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡などを用いた形態形(見た目)の観察から、qPCR法やウェスタンブロット法などを用いた遺伝子やタンパク質レベルでの解析まで様々です。今は大学の授業や実習の合間を縫って、実験をしたり、先生とディスカッションをしたり、リサーチをしたりしています。学会の活動にも参加させていただいています。

幼い頃から宇宙が大好きで、宇宙医学での研究活動を志すようになりました。宇宙医学は宇宙に滞在する人のための医学という側面が大きいですが、宇宙の医学をどのように地上の医学に応用するかということもとても大切なテーマです。宇宙医学は固定概念に捉われずに、夢ある自由な研究ができるのが魅力です。  指導してくださる先生や仲間にも恵まれ、日々楽しんで研究をさせていただいています。月面に再び宇宙飛行士を送ることを目指す「アルテミス計画」も本格的に始まっています。宇宙医学がこれから大きな注目を集めることは必至です。慈恵で一緒に宇宙医学の研究をしませんか。

(医学科2年 中山大河)※2023年1月掲載