学生が自分で作る臨床体験:プライマリケア・選択学外臨床実習
慈恵医大は平成19年度から2年次から6年次に自由選択科目(卒業要件には関係せず、単位を取りたい人だけ取る科目)として、「プライマリケア・選択学外臨床実習」を導入した。当時、慈恵医大は共用試験後の臨床実習として5年次のローテーションとして37週間、6年時のクラークシップとして15週間だけでなく、必修の前臨床実習として1年次の福祉体験実習とECE・病院見学実習、3年次の在宅ケア実習と病院業務実習、そして5年次の家庭医実習として5週間も臨床実習としてカリキュラムに組まれていた(さらに、自由選択科目として2年次に重症心身障害児療育体験実習も開講していた)ので、臨床実習数は全国でも多いほうであった(2020年現在は、臨床実習は前臨床実習で必修8単位、4年次後期からのローテーションとクラークシップで28+40単位の合計76単位である)。それでもさらに多くの、そして多様な臨床体験ができるように「プライマリケア・選択学外臨床実習」を作った。
シラバスには、「学生が地域のプライマリケア、病診連携・病病連携、地域の救急医療、在宅医療、多職種連携のチーム医療、地域における疾病予防・健康維持増進の活動を体験するために、学生が自由に1日単位で、学外での臨床実習を行ない、単位は卒業時まで積み上げることができ、実習場所は、学生と実習責任者との相談で決め、正規なカリキュラムとして行う」と明記し実施した。当時、カリフォルニア州で医師免許を取得するためには、72週以上の臨床実習を受けている必要があり、さらに重要な診療科に関しては週数の指定もあった(例えば、プライマリケア4週以上など)。この科目は学生が低学年から計画的に、しかも自分が立てた計画で臨床実習を追加するカリキュラムで、最も厳しい規則があるカルフォルニア州でも医師免許を取ることも可能とするための意味もあった。この自由選択科目で、多くの学生が通常の大学の臨床実習では経験できない「場」で、大学と附属病院だけでは学べない「患者さんという人、そしてメディカルスタッフという人たち」からの学びを得ている。
この科目を履修した学生のレポートの抜粋を紹介する。
①4年生がリハビリテーション専門病院で実習したケース:「今までチーム医療というものの重要性については講義を受けてきたものの、実際の医療機関でのチーム医療というものについて疑問を持っていました。○○病院でのシステムはまさに様々な業種がチームの医療を行っていました。○○病院は教育機関でないということを感じました。今までの実習では教えてもらえることが当たり前でしたが、○○病院は多忙で私の相手をしている暇などありませんでした。初日は誰にも相手にされない「放置状態」で、何も出来ずに、見学に来たことを後悔したくらいでした。しかし、後半は自分から患者さんやスタッフの方に質問をしたり、患者さんと手を握り話をしたりと、とても有意義に過ごすことが出来ました。今まで、自分が上げ膳据え膳の温室環境にいたんだということを痛感させられました。今回は医師にも、コメディカルにも両方につかせて頂いて、両方の目線を体感しました。改めて、患者さんがよくなっていくことの喜びを感じられました。」
②6年生が市中病院で実習したケース:「実習も5日目に突入しているので、患者さんともそろそろ顔なじみになってきて、廊下などで会っても挨拶をしてくださるようになりました。(中略)エコーのフォローをする患者さんを回り、エコーを見せて頂きました。一人の患者さんでは実際にエコーを当てさせていただきました。学生の立場で何かさせて頂く時は、患者さんや付いてくださる先生のご厚意はもちろんですが、自分の態度もとても重要であると感じました。ベッドの柵を動かしたり、エコーのコンセントを差したり、カーテンを閉めたりといった細かいことでも率先してやっているうちに、その態度が患者さんや先生に伝わると思いました。またそのことが自分が学ばせて頂けているということで自分に返ってくると感じました。」
③3年生が2年次の地域子育て体験実習先に、1年後実習に行ったケース:「今回の実習では、2年生の時子育て支援体験実習でお世話になった○○児童館で実習させていただいた。個人的な目標としては大きく2つ。前回行ったときに、家庭の事情を抱えている子や精神的な疾患を抱えている子について少しだけ教えていただいたので、その子たちについてもう少し注意深く観察し、関わること、もう一つは1年半経って子どもたちがどんな変化をしているか見るということである。(中略)今回の私のように一度きりではなく長いスパンで子どもたちを見ていくというのは、その趣旨に当てはめても実りの多いものだと考えた。実は、正規の実習期間が終わってからも、秩父への遠足の引率、秋の縁日でのお店屋さん・料理の手伝い、夏の児童館のキャンプで博士に扮しての節電や科学のワークショップ開催など、様々な場面で児童館に呼んで頂き参加していた。その中で、もちろん勉強以前の問題として、ボランティアとして仕事をしたり、次々と寄ってくる子どもたちの遊びの相手をした。今回はその中で培った先生がた、子どもたちとの信頼関係があったからこそ受け入れていただけたと考えている。以前、福島先生が医学部の実習は全部「貢献実習」だということをおっしゃっていたが、最近やっと貢献しながら勉強するということはどういうことなのか分かってきた。正に今回の実習のようなものが貢献学習なのだと思う。レポートでは、今回の実習で出会った3つの疾患について、調べたものをまとめ考察を加えようと思う。まず1つ目「場面緘黙症」について。この子は去年児童館を訪れたときに私自身気づいていなかった。(中略)実習初日に、児童館で行われる祭りの準備を一緒にしてた子が長時間何もしゃべらずに一人で黙々と作業をしていたことに気づいたのが、その子との出会いであった。(中略)2つ目に「アスペルガー症候群」について。(中略)最後に「パニック障害」の子について書く。(中略)上記のような子どもたちを通じて今回学んだ子には、まず第一に障害を持つ子にはきめ細かいサポートが必要だということである。サポートの第一段階はその障害について知る、勉強することだと思う。(中略)人は人のかかわりの中で成長するものである。子どもたちと接して私が勉強させてもらったし、医学生として成長もできた。願わくば子どもたちも私とのかかわりの中で何かを感じ、楽しいだけでなく少しでも成長してくれたら良いと思う。」
(教育センター 教授 福島統)