「国家試験に受かる」だけではない!慈恵らしいカリキュラムとは?
現在、全国には医学部が82校(防衛医科大学校を含む)ありますが、どの医学部も最終的な目標は「医師国家試験合格」といっても過言ではありません。となると、6年間で学ぶべき事柄はどの大学に行ってもあまり変わらないはずです。しかし実際には、大学によってカリキュラムはかなり異なっていて、それぞれに特色があります。そこで、ここでは「慈恵らしい」カリキュラムや、慈恵でしか得られない貴重な経験をご紹介します。
突然ですが、「医学」というとみなさまはどの国を思い浮かべるでしょうか。なんとなく、医師がドイツ語で書くカルテや(今はほとんど違いますが......)、分厚いドイツ語で書かれた本を思い浮かべる方も多いと思います。実際、日本は明治維新以降、主にドイツから医学を輸入し、発展させてきました。したがって、現在ある大学医学部のほとんどは、ドイツ医学を基礎にしています。しかし、実は慈恵はイギリス医学を基盤としているのです。本学の創設者である高木兼寛(たかき・かねひろ)先生は、イギリスに留学し、イギリス医学を日本に持ち帰り本学を創ったといわれています。彼はまた、海軍軍医総監としても活躍し、当時陸軍軍医総監だった森鴎外と脚気をめぐって論争になっていたとも伝えられています。
医学には大きく分けて臨床・研究・教育という3つの柱がありますが、イギリス医学は臨床、ドイツ医学は研究をそれぞれ重視しています。したがって、他学とは異なりイギリス医学から発展した本学は、特に臨床に力を入れてきました。わかりやすく言うと、病気自体を研究して治療に結びつけるのではなく、患者さんに寄り添い患者さん自身を診ることによって治療しようと考えてきたのです(これは本学の建学の精神である「病気を診ずして病人を診よ」にあらわれています)。
さて、だいぶ抽象的な前置きが長くなってしまいましたが、つまるところカリキュラムの「慈恵らしさ」とは、いま述べた、患者さん自身や臨床の現場から学ぶことを重視している点にあると個人的には考えています。具体例をいくつかご紹介します。
まず、本学では低学年から、多くの実習が組まれています。知的障碍などのある方々が通う施設で実際に業務を体験させていただく「福祉体験実習」や、重度の障碍のある子どもたちを特別支援学校などで支援する「重症心身障害児療育体験実習<」、訪問看護ステーションで働く看護師を間近で見て学ぶ「在宅ケア実習」など、実に多種多様な体験をすることができます。これらはさまざまな患者さんに出会うことのできる貴重な機会です。また、実際に病院などの臨床現場で学ぶ機会としては、4年後期~6年次の臨床実習だけではなく、1・2年次の「Early Clinical Exposure:ECE」や3年の「病院業務体験実習」などがあり、やはり低学年から臨床現場でさまざまな体験ができるようなカリキュラムになっています。1年次のECEでは、実際に付属病院で働く医師1人に学生1人がつき、1日の流れをまさに目前で体験することができます。1年生というと医学的知識も何もない状態なのですが、医師やまわりのスタッフの丁寧な説明を聞いたり、ときには学生など構っていられないほどに忙しく動く医師を観察したりすることは、勉学への大きなモチベーションとなったことを今でも覚えています。これらの数々の実習は、他学では体験できない慈恵の特色であると思います。
また、臨床現場で患者さんや他のスタッフと適切に意思疎通ができるよう、コミュニケーションについて学ぶ機会も設けられています。1年次の「日本語表現」では、看護学科の学生とともに、適切な話し方からレポートの書き方まで、幅広いコミュニケーション能力を養うことができます。それ以外にも、一般の方を授業にお招きして実際に診察のようなものを行ったり、看護学科の教授による授業で看護師・医師間のトラブルについて学んだりなど、医学的な側面だけではなく、人間的にも成熟した医師になれるようなカリキュラムが組まれています。看護師などに対して高圧的で、患者さんの話にもろくに耳を傾けないような医師がまれにいますが、慈恵ではこのような講義・演習・実習を通して、そういった医師にならないような工夫をしているといえます。
もちろん、臨床だけではなく研究もさかんに行われています。学生全員を対象として、3年次に6週間、学内の研究室に入り研究する機会がありますし(研究室配属)、これ以外にも、好きな研究室で自主的に研究することが認められています。私自身も現在、教育関係の研究をしています。また、毎年10月には成医会という学内の学会が行われており、教授陣に混ざって研究成果を発表することができます。
このように、慈恵では臨床・研究(・教育)をバランスよく学ぶことができます。実際の臨床現場に出る前に、さまざまな背景をもつ患者さんに接し、適切なコミュニケーションをとれるよう試行錯誤できるのは、ありがたいことだと日々感じています。
みなさまと慈恵でお会いできることを、心より楽しみにしております。
(トップ写真:新橋祭(文化祭)当日早朝の大学1号館。準備のため始電で向かったが早すぎて開いていなかった)
(医学科3年 小貫友暉)