受験生応援のための合格体験記

(写真:12月上旬の国領キャンパスのイチョウ)

本稿のテーマ  

私は、小学校受験を経て私立の学習院初等科に入学し、内部進学をして女子中等科・高等科に進学いたしました。学習院は、大学の規模こそ小さいものの、幼稚園から大学院までを抱える、いわゆるエスカレーター校です。例年の内部進学率は、初等科から中等科および中等科から高等科はほぼ100%、高等科から大学は60%強、更に他大学を一般受験する生徒の割合は10~20%程度という環境です。慈恵の医学科には、エスカレーター校出身の学生は多くないように思いますので、そのような環境のなかで、医学部を一般受験するための準備をどのように進めたのかということについて、お話しいたします。

受験本番までの概略

私が、将来の職業として医師を考え始めたのは、小5~6頃と記憶しております。中学受験の必要がなかったこともあり、祖父が終末医療を受ける過程をそばで見るうちに、医療を提供する職に就きたいと思いました。医療系の職のなかでも、臨床・研究・教育を両立し、科学者としても働くならば、医師が最も適していると考えたため、医師になることを目指し始めました。  中学時代は、高い学力をつけるということよりも、勉強に対する姿勢、基礎的な学力を身に着けることに主軸をおいておりました。勉強に対する姿勢すなわち「どのように勉強するか」ということは、勉強の根幹をなすものであり、勉強内容すなわち「何を勉強するか」ということよりも、優先すると考えます。数学は、1,2年生の間SEGに通い、勉強しました。英語は、英検の対策に時間を費やしましたが、机に向かっての勉強をする時間はほとんどなく、専ら移動時間に教材のCDを聴いたり、単語を覚えたりする程度であったように思います。英語の勉強に関しては、高校時代についても同様です。中3および高1の間は塾には通わず、独学で英語と数学を勉強し、高2以降受験終了までは駿台予備学校の医学部専門校舎である市谷校舎に通いました。高校時代は、2年生までは専ら数学の勉強に取り組みました。理科(化学・生物)は、2年生から勉強を開始しておりましたが、本格的に理科の受験勉強に取り組み始めたのは高3のはじめ頃でした。国公立・私立大学医学部を併願しておりましたので、高3では、国語や社会(倫理政経)の共通テスト対策も行いました。  中高を通して、学校の勉強には、テスト・提出物ともに、常に全力で取り組みました。科目の受験への関連性の有無にかかわらず、定期考査に向けた勉強は高3の2学期の期末まで手を抜かず、小論文などの提出課題にも時間をかけました。一見、受験生としては遠回りをしているように思われますが、私は、学校の勉強にも力を注いだことが、かえって功を奏したと考えております。受験勉強と学校の勉強を両立することで、メリハリがつけられ、また学びの面白さの一端を感じることができるからです。 高3の12月の模試まで、志望校の合否判定も含め、模試の結果は概ね良好でしたが、共通テスト本番は得点率が83%と、芳しくない出来でした。このため、想定と現実の間の乖離に、精神的に辛くなってしまいましたが、両親と話し合ったり、予備校の進路指導の方に励ましていただいたりして、私立の一次試験までには調子を戻すことができました。  私は、受験本番で発揮される学力は、(インプット量)×(アウトプットされうるものの割合)で決まると考えております。受験本番直前期は、インプット量はあまり変化しないものの、アウトプットされうるものの割合が変化しやすいと感じました。後者に大きく影響を与えるのが、メンタルの状態です。せっかく多くの価値あることをインプットしても、自信をなくした状態で本番に臨むことで、アウトプットの割合を減じてしまっては、結果的に発揮される学力は満足できるものではないでしょう。直前期は、より多くの新たなことを習得しようとせず、今までに習得したことを入念に復習し、メンタル管理を徹底すると良いと思います。メンタル管理は大変抽象的で難しいものですが、他の人とのコミュニケーションが有効なのは確かです。悩んだときは、ひとまず人を頼ってみましょう!悩みを話すことで解決策が見えるかもしれませんし、残念ながら明確な解決策が存在しない問題でも、悩みを共有することで、辛さは緩和されるはずです。

学校での活動と受験勉強との両立

前述したとおり、私は学校の勉強においては妥協せず、力を注ぎました。また、中1~高3四月は部活動にも所属しており、高1秋~高2秋は部長も務めました。勉強や部活動(加えて委員会活動)などの学校での活動と、受験勉強とを両立するために、私が実践していた工夫をお伝えいたします。  第一に、場所によって、取り組むことを切り替えるようにしていました。具体的には、学校の授業課題・宿題や部活動の仕事など、学校に関連するタスクは、学校に居る時間に済ませ、家や予備校の自習室には持ち込まない、ということです。場所によって取り組むことを切り替えることで、メリハリがつきましたし、学校には退出時刻(私の高校の場合は17:00または17:30)があり、それまでに学校関連のタスクを終わらせることになるため、受験勉強の時間が必要以上に侵食されずに済みました。  第二に、学校での学習を受験対策にいかに活かせるかということを、考えるようにしておりました。学校での勉強と受験勉強は、問題の形式や難易度は違えど、同じ高校履修範囲を扱うものです。学校の進度よりも受験勉強の進度の方が速かったため、学校での学習は専ら復習となりましたが、既習範囲を別の視点から捉えることで、自分の弱点に気づくこともありました。また、読書や作文、レポート、プレゼンの課題等、受験対策とは直接関係のないように思われる課題でも、真剣に取り組むと、その過程で得た知識や考え方が、受験の面接や小論文、自由英作文などの思わぬ場面で役立つことがありました。学校での学習を進める際には、その内容が受験対策とどのように繋がっているのか、どのように繋げられるのかということを、考えると良いと思います。

科目各論

《英語》

英語は、最も得意な科目でした。中学受験の必要がなかったため、小学校時代は時間に余裕があり、英語の勉強を進められたため、受験対策の英語も早めに完成しました。高1で英検1級を取得するまでは、英検用の勉強を主軸としておりました。それ以降は、高3のときに駿台で受講していた医系英語の内容を勉強しました。  英単語は時期に関わらず、(断続的に)勉強を継続しました。使用していた単語帳は、KADOKAWA「鉄緑会東大英単語熟語 鉄壁」、旺文社『英検1級 でる順パス単』等です。あまり力を入れず、他の勉強の合間に息抜き程度に取り組む程度の勉強でした。単語帳以外には、駿台の医系英語の授業の長文や過去問の長文で登場した、知らなかった単語を都度覚えるようにしておりました。  一人での食事や部屋の片づけ等機械的な作業をする際や、ずっと勉強をしていて目が疲れたときなどは、英語の音声を聴いていました。聴くのにも集中力が必要とはいえ、あまり労力は要らないうえ、耳が英語に慣れるとListening(L), Reading(R), Speaking(S)(あまり入試では使わないかもしれませんが), Writing(W)のスキルを要するすべての場面で有利になります。LやRではよく使われるイディオムや文構造を素早く把握でき、SやWでは一単語ずつ考え出すのではなくてフレーズのかたまりで英語がアウトプットされるようになるためです。私は、駿台の医系英語の暗記英文の音声や、文章の中で出てくる単語を覚える形式の単語帳のテキスト音声をダウンロードして聴いておりました。

《数学》

数学は、最も苦手な科目でした。高2終わりまでは、あまり苦手意識はなく、模試での成績も悪くありませんでした。高3になってから数学が苦手だということが明らかになりはじめ、結局、受験終了まで苦手の克服はかなわなかったように思います。高3の夏頃に、数学を得意にすることは諦め、最低限レベルの問題は解けるようにして、比較的得意な英語でカバーするという方向性に切り替えました。  数Ⅰ,A, Ⅱ, Bの標準レベルの問題、数Ⅲの基本レベルの問題を、高2の3月までに習得しました。高3では、駿台で受講していた医系数学で、いずれの分野も応用レベルの問題を演習しました。何度も医系数学のテキストの掲載問題を解き直したように記憶しております。数巻出版『チャート式 基礎からの数学』、いわゆる青チャートシリーズや啓林館『FOCUS GOLD』などの市販の厚い(分量の多い)問題集に取り組むには、数学の学力が足りなかったと感じております。  最も注意を要する分野は、数A、その中でも特に「場合の数」、「確率」です。医学部入試で頻出なうえに、数学的な感覚を体得していないと得点が伸び悩むと考えます。高1で習う範囲ですが、問題演習の数(量)をこなすことが重要なため、数Aは勉強を継続することが望ましいと思います。

《化学》

化学基礎は高1の際に学校で習っていたのみで、自主的に学習することはありませんでした。化学(基礎なし)は、高2の二学期から駿台で受講していた授業でのテキストやプリントを用いて勉強しました。高2で理論・無機化学の標準問題を終え、高3の一学期で有機化学を学習し、夏休みは理論化学の総復習(応用問題の演習含む)、二学期は理論・無機・有機の総復習、演習(応用問題含む)に取り組みました。  私は、理論化学の演習に最も力を入れるべきだと考えております。理論化学が苦手な状態では、無機も有機もあまり解けません。難しそうに思われる問題も、頻出パターンが複数組み合わさっている場合がほとんどであるため、各パターンの習得と何のパターンを用いるべきかということの見極めが肝要です。無機や有機は覚えることが多いため、頻繁に取り組む必要があります。

《生物》

生物基礎は、化学基礎同様、高1のときに学校で習っていたのみで、自主的な学習はしませんでした。生物(基礎なし)は、高3四月から、駿台での授業受講開始とともに勉強を始めました。高2は学校で物理基礎を選択しており、自分が物理と生物のうちどちらに向いているのかを見極めるためにも、そちらの勉強に力を入れていました。しかし今振り返ってみれば、高3での理科の授業の選択を決定した高2秋(11月)または冬頃には、生物(基礎なし)の勉強を開始していれば、余裕をもって本番に臨めたと後悔しております。  覚えることがとにかく多いとよく言われ、確かにそれは正しいと思いますが、覚えれば良いというわけでもない科目です。計算問題は、数学の類似問題に読み替えればかなり簡単なものであるにも関わらず、生物の言葉で記述されているがために手も足も出ないような難しさに思えてしまうことがあります。冷静に読み替えることが重要です。実験考察問題といわれるものは、計算用紙や問題用紙の余白に各実験の図を描いたり、メモを取ったりしながら、頭の中を整理して、分析すると良いです。記述問題が出題されやすく、知識の曖昧な部分が露呈しやすいので、その演習も必要でしょう。

《社会(倫理政経)》

共通テストの社会でいずれの科目を選択するにしても、高3から対策を開始しても間に合うと思われます。国公立医学部受験生の間では、倫理政経、または地理Bの選択者が圧倒的に多いです。  地理Bの勉強についての詳細は分かりかね、単一的な視点からの意見となりますが、倫理政経を選択することをおすすめします。倫理は興味を持ちやすい内容であり、更に、その知識があれば、共通テストの現代文で倫理分野の文章が出題された際に有利になります。無論、思想や人物については注釈が付されていたり、文章中で解説がなされたりしますが、それでも、倫理で学習した知識は文章理解の時間短縮に役立ちます。倫理政経は、あまり勉強しなくとも問題文をよく読めば60点程度は得点できる科目ですが、それ以上の点数をコンスタントに取れるようになるまでが少し大変です。なるべく多くの知識を確実に身に着けたいところです。  私の使用していた参考書は、kadokawa『倫理、政治・経済の点数が面白いほどとれる本』(Kindle版)、清水書院『完全MASTER倫理問題集』および『完全MASTER政経問題集』です。『倫理、政治・経済の点数が面白いほどとれる本』は、電車での移動時間など、かばんからかさばる参考書を取り出しにくい(取り出すのが億劫な)ときに、スマホでKindle版を読んでいました。

《その他》

受験勉強で忙しくならないうちに、医療系志望の学生向けセミナーに参加し、情報収集することをおすすめします。モチベーション向上にも、面接・小論文対策にも役立つでしょう。私は、「ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム」、「未来の医療を創る君へ」(いずれも読売新聞主催)等に参加いたしました。

最後に

受験勉強は、辛く長い道のりのように思われますが、入学した今、その勉強内容そのものはもちろん、受験の経験自体も役立っていると感じています。皆さまと、慈恵でお会いできる日を楽しみにしております!

(医学科1年 石川李津)※2023年1月掲載