人類文明の中の医学:医学には他の諸科学と趣を異にするところがあります

医療は、怪我や病に苦しむ人々を救う医術として、人類の期待に応えるべく発達してきました。その医療を支える医学は人類文明の関連諸領域の成果を取り込みながら、実践される医療と強く連携して体系化されてきました。このため、人類文明の中にあって医学は、他の諸科学とは趣の異なるところがあります。  

医学科は医学を学び、医療に繋げる所です。卒業して医師国家試験にパスすると、すぐに医師として活動することになります。その準備として、4年生の段階で全国共通の学科・実技試験があります。この試験でスチューデント・ドクターとしての認定を受けると、診療の場に出て医療を学ぶ臨床実習に連日取り組むことになります。臨床実習後半の診療参加型臨床実習においては、医療現場の一員として一部の医療行為を含めた診療業務を担当しながら、医師に求められる知識や技術、態度を身に付けます。  

医療の現場の臨床実習で適切に学べるようになるまでには、さらに多くの準備が必要です。まずひとつには、医療を支える体系として人類文明が構築してきた医学の根幹を身に付けておくことです。この根幹なしに知識を寄せ集めにしても、適切な医療を考え、必要な技術を磨くことができないからです。  

ヒトの身体は長い年月の進化の結果として生み出されてきたものであり、体系的に設計されたものではありません。しかもまだまだわからないことが多い中で、対象の領域別にわかったことをつなぎながら体系的に組み立ててきたのが医学です。学ぶときにはこの医学を、医療に繋がる活きた理解に能動的に還元することが求められます。本学が全国に先駆けて臓器別の教育プログラムを導入した目的は、この能動的な還元による活きた理解の形成を促すことにありました。知識をただ吸収するだけでは医療に連携する医学を正しく学ぶことにはならないのです。  

さらに臨床実習で医師に求められる適切な態度を身につけるには、それまでに優れた社会人になっている必要があります。学生は社会人に含めないのが一般ですが、医学生に対して社会が求める期待は高いのです。医学を人類文明の中に適切に位置づけられるようになるために、本学では総合教育や医学総論を重んじています。また、低学年から医療に関連する現場に出る機会を多く作って、道徳性、倫理性を伸ばす機会ともしています。  

医学を学ぶということが、他の諸科学を学ぶのとは趣を異にする部分がある訳をご理解いただけたでしょうか?人類文明の中での医学の立ち位置を謙虚に識った、人格・知識・技能に優れた医師として自信を持って卒業生を社会に送り出せるように本学医学科の教育プログラムは組まれているのです。

(医学科長 教学委員長 教授 竹森重)